ビートルズ・ファン待望の“マル本’’です。
1月からずっと翻訳していたビートルズ本が、無事に校了し、ようやく手を離れました。9月28日、シンコーミュージックより発売となります、ケネス・ウォマック著・松田ようこ訳『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』。
凍結されていた「真実」が、およそ半世紀たって生々しくよみがえる。
ビートルズのロード・マネージャーとして、機材管理や運搬だけでなく、4人のモーニングコールから食事や買い物など公私に渡って支え、コンサート会場からスタジオや自宅までつねに現場に立ち会ってきたマル・エヴァンズ。ビートルズの映画にも登場する、190センチの長身で黒ぶちメガネの、誰からも愛された人物です。
しかしビートルズとの時間を優先し、愛する家族を犠牲にしてしまったことに苦悩し、1976年、40歳で亡くなります。それも警察に撃たれるという最悪の形で。
彼の死によって、出版間近だったマルによるビートルズ回顧録はお蔵入りとなり、ビートルズとの日々を詳細に記録した彼の日記やノート、写真や8ミリフィルム、そして原稿は、日の目を見ることがないまま半世紀近くたってしまいました。
その間、倉庫に眠っていた原稿や写真が発掘されるという奇跡があり、また月日と共に遺族の気持ちに変化が起きたことで、昨年ついに、“マル本”こと『Living the Beatles Legend: Untold Story of Mal Evans』がアメリカで出版されたのです。
ビートルマニアから解散後まで、4人を愛したマルの悲しすぎる結末。
つねにビートルズのいちばん近くにいたマルの視点から、ビートルズとの日々を時系列で綴ったドキュメンタリーです。1960年代の熱狂的ビートルマニア、スタジオ時代、解散劇、ソロ活動、ジョンやハリー・ニルソンらとの酒漬けの日々、バッドフィンガーやスプリンターとのレコード制作まで、すべてが明らかにされています。そして彼の最期と、周囲に広がる悲しみ。終盤は胸が締め付けられます。
普通の社会人だったマルが、憧れのビートルズの下で働くことから始まった喜びと苦悩の物語。ビートルズ・ファンはもちろん、憧れのアイドルに寄り添った男の人生の記録としても、とても興味深い内容です。ぜひ読んでみてください。
2024.09.05
松田ようこ